
株のチャートに慣れていない初心者の方からよくもらう質問として
「達人の域に達したときに1日の利益がどれほどになるのか?」というものがある。
これについての返答と、株の運用について話していきたいと思う。
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株の達人の1日の利益はどれくらい?
この答えは簡単だ。
トレーディングで何かを期待するのは無謀なことなので、そんなことは考えなければよいのだ。同様に、トレーディングのプラットフォームを手に入れたらすぐにスキャルピングを始められるとも思わないほうがよい。
チャートでのプライスアクションが有利な状態になるまでは、特定のセットアップで利益が出ることすら考えないほうがよい。
このことは、時間枠や金融商品にかかわらず、どのチャートについても言える。70ティックチャートのようなスキャルピングのチャートでは、セットアップができるまでに何分、ときには何時間もかかる場合がある。
賢いスキャルパーはこの間トレードする必要がないため、どうなっていても気にしない。彼は必要とあれば何時間でもマーケットを傍観することができる。
利益は「いくら稼ぐか」ではなく、達成可能なものにする

しかし、別のときには続けざまに仕掛けて有利に展開するマーケットのすべてのチャンスを活用しようとする。
結局、70ティックチャートは1日の間に数々のチャンスを提供してくれる。70ティックというのは、トレンドの状態でも動きが遅いレンジの状態でも大いにトレーダーの役に立つ厳選されたティック枠だと思ってほしい。
トレード計画では、典型的な動きのなかで達成可能かつ妥当な利益目標を決めておくことが極めて重要になる。
また、必須である1ピップスのスプレッドの割合が大きくなりすぎないためには、このコストを相殺できる範囲で十分達成可能な最低目標値を選ぶ必要がある。
それから、プロテクティブストップを置くところも考えておかなければならない。
ストップは、できれば仕掛け値の近くに置きたいが、あまり近すぎるとポジションに利が乗る前にストップに到達してしまうリスクもある。
もちろん、これらのことはマーケットの興奮の渦に飛び込む前に考慮しておくべきことで、手法のなかでも厳格に守る部分として設定しておかなければならない。恐怖と欲という消えることのない感覚を中和するためには、調整可能な目標よりも厳しい目標を掲げておくほうが理にかなっている。
株の勝ち負けは1日で考えるものではない
大きな勝ちよりを1回狙うより、小さな勝ちを多く獲得する
しかし、多くのトレード戦略は前者のほうでデザインされている。トレーディングの目標が、有利なマーケットでできるかぎりの利益を獲得することなのは間違いない。
そのため、ときには巨大な勝ちトレードに恵まれることもあるが、結局はマーケットが逆行して利益のほとんど、もしくは今までの利益まで奪い取られてしまうことのほうが多い。
もちろん、ストップを調整して含み益を守る方法はある。しかし、それでは早い段階で利食ってしまうことになりかねない。結局、トレード結果は何を選択するかにかかっており、そのほとんどは時間枠とトレーダーの能力――ボラティリティと逆行に対応する能力――にかかっている。
ただ、スキャルピング戦略の多くは、ときどきある大きな勝ちトレードよりも、1日に何回も繰り返し訪れる小さい利益チャンスをきちんとものにすることのほうに重点を置いていることは当然だろう。
いずれにしても、パラメーターの設定は個人的な欲望だけでなく、70ティックチャートの典型的な値幅のなかでテクニカル的に適合していなければならない。
これから紹介していく設定は、長期にわたって実績を上げてきたもので、本書のすべての例に用いている。すべてのトレードの目標値は10ピップスに設定してあり、これは調整不可とする。
また、ストップも仕掛けから10ピップスのところに置くことにするが、こちらは順行方向のみ移動可能とする。ストップは、負けトレードを最小限の損失で手仕舞うか、含み益があるトレードでこれ以上利益が見込めないときに手仕舞うために使われる。
もちろん、ストップを置いたことでトレードが中断したり、そのまま行けば勝ちトレードになったものを摘み取ってしまったりする場合がないわけではない。
大口でも小口でも条件が変わらないパターンもある
しかし、たとえそのようなトレードがあったとしても、トレーダーが適切な行動を選択するための手助けとなる優れたテクニックがある。トレード管理の項では、いわゆるトレードに利益を見込めるかどうかを決める転換点という繊細な手法について述べていく。
これは、手仕舞いのタイミングを計るためのテクニックで、仕掛けのときと同様の正確さを持って計画していく必要がある。価格の設定をしたあとは、1トレード当たりの金額を決めなければならない。
これは、通貨市場がほかのどの市場よりも大きな可能性を秘めている部分と言える。
株や先物の場合は1枚仕掛けるだけでも決められた最低料金を徴収するブローカーが多いため、小口のトレーダーにとっては高くつくことになるが、通貨トレードでは参入コストがトレード額の一定割合に設定されているため、大口でも小口でも条件は変わらない。
1ピップスのスプレッドでユーロ/ドルを1枚(10万通貨)トレードすればコストは10ドルだが、いわゆるミニFXで1万通貨のトレードならばコストは10分の1の1ドルになる。初心者にとっては、最初はできるだけ小さく始めても不利になることがないため、とても都合がよい。また、手数料型のブローカーでも、トレード金額に応じて何ピペットか程度に設定されているところが多いため、結局はスプレッド型とあまり変わらない。つまり、コストはトレーダーが決めたトレードサイズによって決まる。
私は、最初は保守的に始めて、少しずつ増やしていくことを勧める。資金管理の項では、トレードサイズについてさらに詳しく見ていく。このなかで、資金を効果的に増やしていくために、段階的にトレードサイズを増やしていく方法についても詳しく紹介する。
デモ口座で練習より、実際の口座でトレードすることが大事

新人トレーダーは、ブローカーの架空のデモ口座を使って練習を積むことができる。ただ、これは実践的にも心理的にも最善の方法とは言えない。それよりも、たとえ1000通貨でもよいから、実際の資金を使ってトレードしてみることを勧める。
そのほうが、実際にトレードしたときの気持ちをより現実的に感じることができるだけでなく、ポジションを建てることでブローカーが実際に注文を執行した価格水準を知ることができるからだ。
ただ、注文の出し方などといった細かい手順に慣れるためには、何日間かデモ口座でトレードしてみるのも悪いことではない。
ユーロ/ドルのスキャルピングでは、例えば10ピップスといった比較的小さく設定した利益目標で満足するのがよいと言われている。ほかの条件が同じならば、達成可能な目標に取り組むほうが、達成できるかどうか分からない大きな利益を目指すよりも安心してトレードすることができる。
そのうえ、10ピップスで利食ったからと言って、もう1回素早く仕掛けてあと10ピップスを狙えないというわけではない。60ピップスのスイングで、20ピップス、30ピップス、40ピップスのスキャルピングをすることは珍しいことではない。
それに加えて、潜在利益を秘めたたくさんの無意味な動き(大きな時間枠やティック枠ならば素早く利益を上げられたかもしれない場面)や、何日も続く方向感のない無意味な上げ下げも無数のスキャルピングチャンスを提供してくれる。
最近では、ほとんどのトレーディング用プラットフォームがトレードを実行するためにさまざまな方法を提供している。最低限必要な成り行き注文と指値注文に加えて、特定の仕掛けや手仕舞いのテクニックで使われる複雑な注文方法をいくつも用意しているものもある。
しかし、スキャルピングでは瞬時の処理が必要となるため、本書では単純な設定に徹してプラットフォームが自動的に実行する注文と、1クリックで実行できる手動の注文だけを使うことにする。
まずは成り行き注文のみがおすすめ
そのためには、事前に正しいトレードサイズと仕掛けからストップまでの距離を決めておかなければならない。そこで、ブローカーとそこが提供するプラットフォームを選ぶ前に、次のオプションが付いているかどうかを確認しておく必要がある。
まずは仕掛けだが、成り行き注文のみを使う。スキャルピングでは、下手に指値注文を使う必要はない。仕掛けたいときは、マーケットが狙った水準に達した瞬間に買いか売りのボタンをクリックするだけでよい。
目標値とストップはすでに10ピップスと決めてあるため、ポジションを建てるときにはこれらの注文を自動的に出してくれるプラットフォームを選ぶべきだろう。
これはブラケット注文と呼ばれている方法で、非常によく使われている。買いポジションを建てるときは、価格が上がると予測しているため、目標値の注文は自動的に仕掛け値よりも10ピップス上、ストップ注文は10ピップス下に置かれる。
反対に、売るときは価格が下落すると予測しているため、目標値の注文は仕掛け値の10ピップス下、ストップ注文は10ピップス上に置かれる。
そして、もしこのどちらかが約定したときは、利食いでも損切りでも、反対側の注文は自動的にキャンセルされる。このような注文の仕方はOCO注文(一方が約定したら他方がキャンセルされる注文)とも呼ばれている。
ブラケット注文を適切に設定しておけば、トレーダーはポジションを建てたらトレード画面の前を離れることもできる。そして、しばらくしてから結果を確認すればよい。
成り行き注文は、その特性を理解しておこう
もし目標値に達していれば、指値注文が出されて仕掛け値から10ピップスの価格で執行される。一方、反対側のストップ注文は常に成り行き注文なので、そこに達したときは10ピップスかそれよりも多少悪い価格で執行される。
ただ、多くのプラットフォームではスプレッドの大きさを考慮して、ストップ注文は10ピップスからスプレッドを引いた間隔で置く必要がある。話を簡単にするために、すべてのケースでスプレッドを1ピップスとして進めていく。
いずれは競争が激しくなってスプレッドはさらに下がると思うが、今の時点では手数料が無料で1ピップスのスプレッドか、手数料が1/2ピップスという形が業界のほぼ標準になっている。
成り行き注文は、その性質上スリッページが発生することがある。マーケットが特定の水準に達したところで注文が出され、その時点の価格で約定するため、プラットフォームが注文を送信するまでのほんの一瞬にマーケットが動いて価格が狙った水準から離れてしまう可能性があるからだ。
つまり、マーケットの動きが速いときは、不利な価格で執行されてしまう場合がある(逆に有利になることもある)。
その一方で、もしトレーダーが手仕舞ったり仕掛けたりしたいときに成り行き注文ならば必ず執行されるが、指値注文は特定の価格でしか執行されないため、トレードを逃してしまったり(執行されなかったり)、手仕舞うべきときに手仕舞えない場合もある。
そのため、仕掛けは必ず成り行き注文で出し、手仕舞うときも指値注文が執行される前に逃げ出したいときは手動で成り行き注文を出す。
ブラケット注文を使えばあとはマーケットに任せておけるため、ポジションを落ち着いて管理できるが、これは最も効果的な方法ではない場合もある。仕掛けたあとはプライスアクションを注意深く観察して、トレードに利益が見込めなくなることを示すチャート上のテクニカルなヒントを探すほうがよいからだ。
注文を出すときは1クリックで出来るようにしておく

そして、手仕舞う水準は、もちろんテクニカルな視点で決定する。そのときに必要となるのが、転換点のテクニックである。トレードを手仕舞うときは、単純に反対方向の成り行き注文を出せばよい。
例えば、10万通貨の買いポジションを建てるために成り行き注文を出したときは、売りのボタンをクリックすれば10万通貨の売り注文が出されて、一瞬のうちにポジションは未決済からマルに変わる。プラットフォームによっては、売りボタンではなく、手仕舞いボタンになっているものもある。
ただ、洗練されていないプラットフォームにはこの1クリックモードを提供していないものが多い(つまり、ボタンをクリックしたあと本当に手仕舞ってよいか確認を求めてくるようになっていて、確認不要というオプションがない)。
注文を出すときは、1クリックで出せるようにしておきたい。そうしないと、経験不足のトレーダーは、手仕舞うつもりなのにうっかり反対方向ではなく、保有ポジションと同じ方向の注文を出してしまうしまうことになりかねないからだ。
そうなると、ポジションはマルにならずに2倍になってしまう。このようなことは実際に起こる。
もし1クリックで手仕舞うボタンがなくて心配ならば、仕掛けた直後に手仕舞いのボタンを押して確認チケットを表示させておき、手仕舞うときが来たらそれをクリックして注文を出せば、1クリックと同じ効果を得られる。
注文チケットを設定するときは、売りと買いのボタンをチャートの上の小さなウインドウに置いておくとよい。そして、チケットがチャートの後ろに隠れないようにするために、常時表示の設定ができるオプションが付いたプラットフォームを選んでほしい。
そうすれば、マウスがチャートを触ってしまってもチケットは常に見えるところにある。
こうしておけば、トレーダーは1つの画面さえ見ておけばよい。この画面にはテクニカルチャートが表示されていて、1クリックで仕掛けたり手仕舞ったりできる。
それ以外にも、1画面の設定にはそれ以外の情報を隠しておけるというメリットがある。ポジションを建てたあとは、そのあとのマーケットの反応だけに注目しなければならない。自分の口座の状態や、現在の含み損益などを知る必要はないのだ。
このような情報は不要なだけでなく、判断を下すときに恐れや欲などが混じるなどして悪影響を及ぼす可能性もある。すべきことを実行するために最も重要な要素は精神的な安定であり、テクニカルなスキル以上に必要だということをぜひ認識してほしい。
邪魔が入って気が散ることを防ぐ環境を整えておけば、チャートにより集中して計画をきちんと実行していくことができる。